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京都家庭裁判所 昭和44年(少ハ)5号 決定

少年 G・O(昭二五・七・三〇生)

主文

本件申請を却下する。

理由

(本件申請の要旨)

少年は昭和四一年一二月一二日京都家庭裁判所において、中等少年院送致となり播磨少年院に収容され、同四三年六月一四日仮退院を許されたものであるが、仮退院当初から保護者である祖母の言を聞き入れず、就労の意思なく、祖母に金銭を強要し、応じない時には「何をがたがた言つているのや、一人殺すも二人殺すも一緒や。」等と暴言をはき、更に物を投げつける等の粗暴行為をなし、同年九月一八日から翌四四年一月七日までの間家出し、その後家に帰り就労するも長続きせず、祖母に金銭を強要し、更に家財を持ち出し、入質して遊興費に充てるなど怠惰な生活を送り、この間保護者はもとより担当保護司、保護観察官において就労をすすめるもこれに応じず、度々訓戒注意するもその生活態度は全く改善されなかつたものである。

以上の次第で少年は仮退院中遵守すべき事項に違反し将来も遵守しないおそれが強いので、保護観察による指導監督は極めて困難な状況にあり、放置すれば再非行に陥いる危険が強いので、この際少年を少年院に再収容して矯正教育を施す必要があり、その期間は決定後一年間を要するものと思料する。

(当裁判所の判断)

仮退院後の経過は概ね申請理由のとおりであつて、少年が仮退院に際して定められた遵守事項に違反しており、且つその性格、環境に照らして将来も遵守しないおそれが多分にあることはその仮退院後の経過から容易にこれを認めることができる。

ところで、犯罪者予防更生法四三条の戻収容の要件は、単にその者が遵守すべき事項を遵守しなかつたか、又は遵守しないおそれがあるというだけでは十分でなく、特にその者を少年院に戻して収容する必要性があることをも要件とするものと解する。

そこでこの点について検討するに、少年は幼少時父と死別し、母の庇護のもとに物心両面にわたり恵まれた生活をして来たが、母の死亡により精神的支柱を失なうと同時に家庭内においても厄介視されるようになり、少年に対する近親者の態度も冷たくなつたこと等が原因となり、愛情欲求不満と近親者に対する反抗から不適応行為、さらに非行へとはしり、その結果教護院、中等小年院に収容されるに至つたものである。

しかるに本件仮退院後も依然として少年の怠惰、自己中心的性格は変らず、保護者たる祖母をも含めて近親者との溝も深まるばかりであり、加えて少年がいわゆる少年院帰りということから近親者がますます少年を厄介視して放任していたため、少年は近親者のそういう態度を敏感に感じとり、それらの者に対する積極、消極の反抗が怠惰、家出、徒遊等遵守事項違反行為となつてあらわれたものである。(従つて、近親者にも責任の一端はあるのであり、いちがいに少年を非難するにあたらない。)

少年のこのような性格は長期にわたつて形成されて来たものであつて、容易に変えることのできるものではなく、すでに成人に近い年令に達していること等をも併わせ考えるに今ここで再び収容してみてもはたしてさしたる効果が期待できるか大いに疑問の存するところである。

してみれば、このような少年の保護、育成にはある程度規制をゆるめ、望ましいことではないが多少の遊興、外泊等をも黙認し、要はそれが原因となつて罪を犯すことのないよう指導、監督していくことがより適当な方法であると解する。

ところで少年は昭和四四年一〇月九日当裁判所において試験観察となり料理店に補導委託され、当初は真面目に就労していたが、交通事故によるいわゆるむちうち症になつてから充分に仕事ができず、委託先を出てバーテン見習等もしてみたが、長続きしなかつたようである。

然しながら少年の稼働する意欲は見受けられるし、又、祖母のもとをはなれてアパートを借りながらも、時々、祖母、叔父、兄ら近親者を訪ねていることから、少年としては完全に独立して生活していくことはできず、近親者内に精神的支柱を求めていることがうかがわれるし、又、近親者も少年に小遣銭やアパート代等を与え両者の関係はかなり良くなつて来たようである。他方約九ヶ月間の試験観察期間中少年の生活態度は必ずしも良好とはいえないが、その間、罪を犯さなかつたということは少年の性格、現在おかれている環境等に鑑み高く評価すべきであり、このことは少年自身もかなり自己の行動を抑制していたことが認められる。更に、少年はまもなく成人に達するし、今ここで戻収容すれば漸次よくなりつつある近親者との関係が又悪化するばかりでなく、少年は自棄的行動をとつて今後より以上の反抗的態度(犯罪をも含めて)をとり好結果は得られないものと考えられる。以上の諸事情を総合して判断すると少年を現時点で戻収容する必要性は認めがたい。

少年の現在の環境は決して満足すべき状態とはいえないが、更に時間をかけて少年と近親者間の調整をはかりこれらの者の協力(特に精神面での)のもとに少年をまず療養させ、その上で定職に就かせ自己の将来に対する設計を持たせるよう長期にわたつて指導、監督していくことが少年にとつて最も適当な方法であると解する。

よつて本件申請は理由がないのでこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 舘野明)

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